子育てに役に立つ知識 - 子育て NPO法人親学会 ウェブサイト

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子育てに役立つ知識

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「おんぶ」の大切さ J・W・プレスコット

onbu.jpg1983年、アメリカの生物行動システム研究所の所長ジェームズ・W・プレスコットは、当時、幼児開発協会の理事長であった井深大氏宛に寄せた手紙の中で、次のように書いている。
「赤ちゃんの脳の発達、情緒的・社会的行動の発達にとって、決定的に重要なのは、接触(スキンシップ)と、母親が身体につけて赤ちゃんを運ぶ(おんぶ)行動なのです。最近の動物実験でも明らかになったように、赤ちゃん猿に対し、この接触も運動も与えずに育てますと、脳の障害を起こし、その結果この猿は著しく異常な情緒的・社会的行動をとるようになります。つまり抑うつ状態になり、社会性を失い、極端に暴力的になるのです。(中略)この研究は、日本の文化にとっても、重要な意味を持ちます。日本が、伝統的な子育ての方法を捨てて、欧米的な育児法を取り入れたことです。おんぶをやめ、母乳哺育が減り、親子のスキンシップが不足し、その代わりに保育所的な子育てが普及してきたことです。
この子育ての変化は、将来の日本にとって、重大な影響をもたらすでしょう。家庭の崩壊・犯罪・暴力・殺人・自殺・麻薬・アルコール中毒などが増加し、学習障害が現れ、日本の優秀な知的、創造的発達を阻害する結果となるでしょう。
これはすでに欧米諸国において実験ずみのことなのです。身体を通しての愛情の不足、母子のきずなの不足が、その原因だったのです。」『幼児開発』誌・1983年6月号

見直したい日本的スキンシップ法

cocoronotue.jpg添い寝の善し悪し
日本人に好まれる「添い寝」は、身体的な触れ合いの中でも最も密着度の高い行動のひとつである。日本では、すでに平安時代ごろから添い寝の習慣がみられた。
しかし、明治時代に入ってきた欧米の化学的な育児法によって、これらの習慣は切り捨てられてきた。ドイツの医師クレンケの育児書によると、「母親皆自ら小児を抱きて己の寝床に添え寝する」のは「悪しき習わし」であり、「いやしくも開化の民たるモノは為せざるわざ」であると否定されている。
同じように命じ17年に、医師の柴田敬斉は「小児を背負うの害を論ず」という文章を書いている。「おんぶ」は「猿にも似た野蛮の風習」とまで述べている。
最近はその揺れ戻しで、これまでの触れない育児への反省がなされ、欧米各国をはじめ日本でも、触れる育児へと歩みよってきたかにみえる。それでもなお、「寝る」という行為に伴うスキンシップは、現代の各国の育児書を見てみると、日本のような寛容な考え方に対し、アメリカ、フランス、イギリスのどの国でも、今も反対されている。
例えばアメリカのアイゼンバーグらが1994年に書いた育児書には、次のような記述がみられる。
「添い寝、親子が同じベッドに寝ることは、うまくいくようであるが、主として他の社会の話である。我々の社会のように、自立の育成を重視し、プライバシーを強調するところでは、添い寝は広範な問題につながっていく」
「広範な問題」というのは、たとえば夫婦の眠りが損なわれることや、夫婦のプライバシーが守られない、子供の自立が遅れる、などというものである。
このように、欧米で添い寝が反対される理由が、主として大人の視点から大人の権利を尊重するものであるのに対して、日本では終始子供の視点で、子供の心理的安定などの利点を理由に添い寝が勧められている。
では、添い寝は身体に、どのような影響をもたらすのであろうか。
研究によると、母親と赤ん坊を同じ布団やベッドで寝かせると、睡眠や覚醒のリズムが次第に似てくるそうだ。
たとえばアメリカの「睡眠研究所」で行われた調査では、母親と同じ布団やベッドで寝ている赤ん坊は、夢を見る睡眠反応を含めて、睡眠と覚醒のリズムの8割は母親と一致している、との結果が得られたそうだ。
母と子は同じ時に深い眠りに入り、また夢を見る。覚醒反応もほとんど同時に出現するそうだ。ところが、母子を別々の部屋に移すと、すべてバラバラになってしまうという。母子がすぐ近くにいるだけで、接触する肌を通して何らかのやりとりがなされているようだ。
しかし、睡眠が動機するということは同時に、子供が起きると、一緒に母親も起きてしまうという事態を招く。欧米ではこの点を取り上げて、「母親が睡眠不足に陥るため、添い寝はよくない」という意見が多い。
あるいは、アメリカでは添い寝による圧死が多い。特に親がアルコールを飲んで眠ったときなどに多発しているようだ。これもあって、添い寝はやはり危険だと考えられているのだろう。
しかし、見方を変えると、添い寝には赤ん坊の状態をいち早く察知できるという利点がある。これは、添い寝だけでなく、抱っこやおんぶにも共通する利点である。母親がつねに肌をせっしていることによって、赤ん坊の微妙な変化に気付きやすくなるのだ。また特に添い寝には、睡眠中に多発する乳幼児突然死症候群を予知する効果も大きい。
育児のすべてを親にとって「合理的」なものにしようとする欧米流の考え方に対して、日本の伝統に根ざした育児は、子供にとって何が一番好ましいことなのかという視点に立っていることがわかるだろう。この視点は、現代の日本人も失いがちであり、残念なことである。
「抱っこ」や「おんぶ」についても「子供を抱くと抱き癖がつくからあまり抱いてはいけない」という意見もある。
しかし、抱き癖がつくことよりも、抱かれ足りないことから起こってくる将来的な心の問題のほうが、はるかに深刻であることは、これまで繰り返し述べてきたとおりである。また、自立を促すために早くに親から引き離すよりも、特に乳幼児期にたっぷりとスキンシップをしたほうが、依存心を減少させ、自立心を育てるのだということも、もうお分かりだろう。
抱っこ、おんぶ、添い寝は、ぜひお勧めしたいスキンシップなのである。